歯科情報

超音波治療器のVertical ridge augmentationへの応用

藤井秀朋、河津 寛

目的

骨折の治癒促進にその効果が認められている超音波、米国の整形外科領域では難治性の骨折治療において既に保健適応されています。本国においても整形外科領域ではその効果に着目し、良好な治療成績が報告されています。一方、歯科領域では歯の欠損による機能障害に対して、インプラント治療が有効な治療方法であることが証明されて以来、高い予知性を持って患者様のニーズにお答え出来る治療方法として認識され各種メディアからも頻繁に紹介されています。しかし、どのようなタイプのインプラントシステムであってもインプラントを支える良質で十分量の歯槽骨が良好な結果を得る為には必要不可欠です。その為、以前より各種骨補填剤、メンブレンなどのマテリアル、GBR、仮骨延長法などの術式、また、PRP等、高濃度の血小板に含まれる成長因子の応用が研究され、臨床的に適応範囲は飛躍的に進歩しているが限界もあります。そこで、GBRの中でも難易度の高いと考えられる高度に皮質化した骨吸収の著しい下顎臼歯部のvertical ridge augmentationに骨形成の促進を期待出来る口腔領域専用に開発された超音波治療器を応用し、良好な結果が得られたので報告いたします。

症例

インプラント治療を希望し来院され、全顎的に高度の骨吸収を認めました(図1)。術前のCTデータをSimplantsにより3D構築し診断・計測したところ、下顎左側臼歯部の歯槽骨頂-下歯槽菅距離は第一第二大臼歯部で約9mmと近接、(図2)また、同部のハンスフィールド値からは歯槽頂部における皮質化の昂進を認めました(図3)。インプラント埋入には垂直的な骨高径獲得が必要不可欠であることから、vertical ridge augmentationを予定すると共に再生すべき垂直的骨量が約8mmであること、および同部の骨質から難易度の高さが予想されます(図4)。

初期治療終了後、下顎右側臼歯部に自家骨、Bio-oss、PRPおよびBio-Guideを用いてGBRを施行しました(図5)。しかし、予想はしていたものの移植骨は術後36週時には垂直的にその殆どが吸収されていました(図6)。そこで、目的の骨高径を得る為に超音波治療器による骨形成の促進を期待し再度GBRを施行しました。術式は前回と同様ですが吸収性メンブレンの下部にStraumanのmini screwを3本用いました(図7)。術後2週時より、1日1回15分を4週間、 超音波治療器を同部へ応用しました。設定は発振周波数3.0MHz、パルス幅2ms、パルス周期10ms、総出力:240mWとしました。

術後13週時のパノラマX線写真では予定した骨高径が得られており、移植骨と母床骨との境界は不明瞭でした(図8)。術後24週時のX線所見では予定した骨高径が得られており(図9)、翌週に同部にインプラントを4本埋入、造成した骨には豊富な血流が認められ、骨質は比較的硬く初期固定は十分に得られました(図10)。インプラント埋入後3ヶ月時にはオステオインテグレーションの獲得を確認し、現在プロビジョナルレストレーションにて機能負荷を開始しているが経過は良好です(図11)。

結果と考察

長期間かけて吸収しかつ高度に皮質化した下顎遊離端欠損部におけるvertical ridge augmentationは難易度の高いケースと考えられます。このような症例に骨形成の促進が期待される超音波治療器を応用した結果、予定した骨高径の獲得および、臨床的に良質な骨の再生が認められ、インプラントによる機能回復が可能となりました(図12)。一般的に、vertical ridge augmentationは骨質、部位、個体差等の条件にも左右されますが臨床上約4mmが限界と報告されています。その理由の一つとして、移植骨部の周囲および内部における新生毛細血管の再生と同部の血流の再開が早期に行なわれ、それらに伴って移植骨部は一時的な吸収機転を経ますが、その体積を減ずる前の早期に骨リモデリングを開始する必要性がある為、量的限界が生じると考えられます。したがって今回のケースではmini screwによる高径の維持に加え、超音波刺激により局所における血流量の増加と細胞に対する適度な刺激により代謝活性の促進が行なわれ、5〜7mmの骨高径を獲得し良好な結果が得られたと推測いたします(図13)。

'01.11.17

図1:初診時パノラマX線写真

初診時パノラマX線写真

図2:Simplantsによる診断3D画像

Simplantsによる診断3D画像

図3:欠損部歯槽頂のHounsfield値

欠損部歯槽頂のHounsfield値

図4:GBRのシミュレーション

GBRのシミュレーション

'01.11.17

図5:下顎右側臼歯部 GBR

下顎右側臼歯部 GBR

Material
Bio-oss:AB=2:1
PRP
Bio-Guide
1回目GBR後1week

'03.7.19

図6:1回目GBR後36week 移植骨の吸収

1回目GBR後36week 移植骨の吸収

下顎左側インプラント埋入前

図7:下顎右側臼歯部 再GBR

下顎右側臼歯部 再GBR

Material
Bio-oss:AB=1:2
PRP
Bio-Guide
Straumann mini screw
術後2wより超音波治療開始
1回目GBR後 12M 再GBR

図8:下顎右側臼歯部 再GBR後 13week

下顎右側臼歯部 再GBR後 13week

超音波治療応用後
中央部も境界不明瞭、近心部新生骨陵(+)

図9:下顎右側臼歯部 再GBR後 6M

下顎右側臼歯部 再GBR後 6M

超音波治療応用後

図10:下顎右側臼歯部 再GBR後 6M.1w

下顎右側臼歯部 再GBR後 6M.1w

超音波治療応用後

二次手術
アバットメント装着
印象

図11:プロビジョナル レストレーション装置

プロビジョナル レストレーション装置

荷重開始時(二次手術後5日)

図12:術前

術前

図14:垂直的骨高径の獲得量

垂直的骨高径の獲得量

図13

図13

図13

解説

従来の方法では骨が足りなくてインプラント治療を断念されている方などに対して、超音波治療器を使うことによって確実に骨を増やし、インプラント治療を可能とする、最先端の治療方法と考えられます。

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